[2005/04/12] フジvsライブドアをまとめてみた。

今回のライブドアとニッポン放送・フジテレビの買収・買収防衛合戦、普段経済に関心を持っていない人にとっては、ややもすると知らないうちにワケわかんないことになってる・・・って感じですよね。

百億単位のお金の話が宙を飛び交っているので、「自分には全然関係ない」と思っている人も多いでしょう。
でもこれ、サラリーマンの人だったら、この先自分の会社がひょんなことから同じような買収劇に巻きこまれ、一晩にして環境大激変!なんてことにもなるってことを暗示しているんですよ。

てことで、話を整理するために伝言板に載せた記事を加筆訂正して、コラムとして載せることにします。
言っときますが、僕はM&Aの専門家じゃありませんし、経済通でもありません。
今回の話は、仕事のほんの一部がたまたま、ホントにたまたまフジテレビ側陣営として関わっていたので関心があっただけのこと。
また、理解をしやすくするため結構いい加減に書いているので、細かいこと指摘しないように(^_^;)


【そもそもなんでライブドアはニッポン放送が欲しいの?】
インターネット企業がいまさらラジオ局買って、そんなにメリットがあるのか?と思いますわね。
まさしくその通り。
実は、ライブドアがニッポン放送にちょっかい出したのは、ニッポン放送が本当の狙いではないのです。

まず、ニッポン放送とフジテレビは互いに株を持ち合っていますが、株式の持分で言うとニッポン放送がフジテレビの親会社という形になっていました。しかし株式の時価総額で言うとフジテレビの方がぜんぜん大きいのです。今をときめくフジテレビですからね。
でも資本関係上はニッポン放送がフジテレビの親会社。
つーことはですね、時価総額が小さく買収しやすいニッポン放送を買ってしまうと、オマケでフジテレビがついてくる、という状態になっていたのです。
この危機感があったので、フジテレビは一気に関係を逆転して整理するため、ニッポン放送の株式を買い増して子会社にしようと「公開買付(TOB)」を実施したのです。

ところが、この話をかぎつけたライブドア・堀江氏が、それなら俺がニッポン放送買っちゃおうということで、ニッポン放送株を一気に買い増しました。
フジテレビはさすがに買えないけど、ニッポン放送ならちょっと背伸びすれば買えちゃいそうだから、まずニッポン放送を買ってフジテレビにオレサマの言うことを聞かせよう、というところでしょうか。

このとき使った手法が「時間外取引」(正式には立会外単一銘柄取引もしくは終値取引)でした。法律上、会社の支配権獲得を目的にした買付は、公開買付によることというさだめがあるのですが、時間外取引で多くの株を買った「結果」、支配権を取っちゃった・・・というのが今回の建て前なので、法律の趣旨には反しているが違法ではないという、「スレスレ」の手法といえます。

こんな手法を使って、ニッポン放送という他人の出城を奪い、最終的には本丸であるフジを奪おうというやり口が、議論を呼んだのはみなさんご存知の通りです。現経営陣の意思に反して、経済原理で強引に支配権を奪うことから、こうした買収を「敵対的買収」といいます。


【アンタ誰だよ!とやられた方は身構えます。それが買収防衛策】
ニッポン放送はこれに対抗するため、「ニッポン放送の新株をあらかじめ決められた価格で取得できる権利(新株予約権:以前はワラントと呼ばれていました)」をフジテレビに大量付与する、という発表を行いました

これはつまり、現在100ある株式の50をライブドアに握られた場合、全体の株式数を200にしちゃえば、割合で行けば25%に落とすことができるじゃん、ということです。
全体を薄めちゃうのね。

これは「ポイズン・ピル(毒薬条項)」と言われているもので、買収されることを意識している会社の場合、あらかじめ定款に組み込んで置くものです。
こういう用語って、M&A専門家には当たり前のことかもしれませんが、普通の人にとってはかなり耳新しいことです。報道を聞いたときは「ほぇ〜、そんな手があるんだ。へぇ〜」と感心したものです。
報道も「逆転ウルトラC」みたいな風潮でした。

ところが今回の場合、買収をしかけられてからドロ縄式にポイズン・ピルを発動しようとしたことに無理があり、問題がありました。

新株予約権を大量付与し株数が大幅に増えた場合、会社全体の価値や資産は変わらないのに株式数だけ増えることになりますから、つまり一株あたりの価値が下がってしまいます。ということは、既存の株主にとって不利になることを意味します。
さらにその新株部分を特定の株主にのみ発行するとなれば、新株を手にする株主のみが新たな価値を手に入れられることから、「有利発行」として商法上いろいろ手続きの必要な経営判断とも言えます。
これを指摘してライブドアは裁判所に「こんな新株発行はずるいじゃん!」と、仮処分申請をしました。ま、自分のことは棚に上げて・・・とも言えますが(^^ゞ


【そこまでやるか?な買収防衛策】
ニッポン放送はさらに、ニッポン放送の子会社であるポニー・キャニオンなどの株式をフジテレビなどに売却、または貸し株する方法を検討しました。
買収しようとした企業が持っている価値を、どんどん外に売り払ってしまうことにより、会社自体の価値を下げ、買収を諦めさせようという捨て身の手法です。
一番重要な価値部分を手放してしまうことから、「クラウン・ジュエル(王冠の宝石)」という英語名はついていますが、日本では「焦土作戦」と言われます。

この手法の問題点は、経営陣がわざわざ会社にとって損になることを行うことになるので、株主から訴えられる可能性があり、でもってかなりの確率で負けるということです。
結局これは「やるぞやるぞ」という脅しだけで終わり。


【面従腹背・・・お金で買えないものはやっぱりある】
さて、この仮処分申請は結局認められ、ニッポン放送は抗告もしましたが認められず、高裁まで争ってもやっぱり認められませんでした。

これでニッポン放送側は打つ手を失い、ライブドアに膝を屈するしかない、ということに一旦はなりました。

とはいえここに来て、ニッポン放送というラジオの「コンテンツ」を支えるタレントたちも、ライブドアに対して反意をあらわにし始め、資本の論理だけでは企業といえど動かない難しさを改めて知ることになります。

ニッポン放送側は「ライブドアと協議する」と発言しましたが、さすがにバッシングに辟易としたのか、一方の堀江氏も「パートナーとしてやって行く」と急速に歩み寄りを見せはじめていました。

ま、遅いですけどね。


【再逆転】
さてこれで手打ちかと思っていたら、まだ隠し刀を持っていたんですねぇ。
それが今回の「ニッポン放送が持つフジテレビ株を、ソフトバンクインベストメントと共同出資するファンドに貸出す」というもの。
なかなかタヌキですよ(笑)。

貸し株は、名義も所有権も借りた側に移ってしまいますので、ニッポン放送のものであってニッポン放送のものではない、ということになります。分かりにくいですけど、最初にそう言う契約を結びます。
もともとはニッポン放送のものなんだよ、というのは、この契約書が証明してくれます。「消費貸借契約」と呼びますが、これ、要するにお金の貸し借りと同じなんですよ。

「お金を貸す・借りる」という行為をより詳しく見てみると、まずお金の持ち主は貸す側であることに異論はないですね。では、お金を持っている人がそれを貸すというのはどういう行為でしょうか。
お金を借りた人は、そのお金を自由に使うことが出来ます。ものを買ってもいいですし又貸ししてもOKです。決められた日までに同じ金額を返せばいいだけのこと。
当然、貸したほうは、一旦貸したらそのお金は手元になくなります。

つまりお金を貸す(借りる)ということは、「そのお金を使う権利を売る(買う)」ということに他なりません。売るんですから対価が必要です。その対価はなんでしょう。
それが「金利」です。
つまり、お金の貸し借りというのは、「使用権」を与えてその対価を得るということです。

この「お金」の部分を株式に置き換えてもまったく同じことが言えます。
株式の持ち主が「使用権」を売ってお金をもらうことが可能なのです。この場合の対価は「貸し株料」といいます。
もちろん「使用権」を売ってしまっているのですから、ここでも同様に返してもらうまでの間は自らが「使用」することはできません。
ニッポン放送とフジテレビの狙いは、まさにここにあります。

ライブドアにとっては、ニッポン放送を買ったはいいが、本当の目的である箱の中身・・・つまりフジテレビが入ってない空箱だった・・・ということになります。
これは先に出てきた「クラウンジュエル」「焦土作戦」と狙いはまったく同じです。
ただし、今回の手法にはもう一面があって、ライブドアよりはいくらか友好的でマシな相手として、ソフトバンクインベストメントにフジテレビ株を持ってもらうことになります。

これは颯爽と現れて救ってくれるという意味から「ホワイト・ナイト(白馬の騎士)」と呼ばれる手法のひとつです。(ナイトはnightではなく、knightの方です)

よくもまぁ次から次へといろんな言葉が出てくるもんです(^_^;)


【でもなんかおかしくない?】
ここで疑問が2つわいてきます。

1つめは、貸しているだけならいずれ返すんだから、返したらそれからライブドアはフジテレビ支配に動けるじゃない、というものです。
この疑問はその通りなんです。一見意味がないように見えます。でももう少し考えて見ましょう。

まず、今回の貸借期間は5年間となっています。
ということは、ニッポン放送は5年間、貸しているフジテレビ株を一切売却出来ませんし、議決権も行使できません。つまり、ライブドアはニッポン放送を買っても、事実上フジテレビに対してなーんにもできないまま5年間我慢しなければなりません。何かアクションを起こしたければ、一から買う必要があります。

オマケに、ライブドア支配に反対する社員やタレントが続々と離れてしまえば、ラジオ本業も立ち行かなくなります。子会社のポニー・キャニオンも、フジテレビからドラマなどのコンテンツ供給を受けられなくなれば、使い物になりません。
つまり、さして収益も上げられないまま5年間耐えなければなりません。
今のビジネススピードの中で、5年間も役立たずの資産を持っていることは、許されないことなのです。「スピードが遅いから強引な買収をした」と言っている堀江氏が、役立たずの資産を5年間も持っていたら、それは大いなる自己矛盾でもあります。

また、この5年間の間に、フジテレビはさまざまな理由により時間をかけて増資を行うことができます。
5年後に、ニッポン放送の手元に株が返ってきても、その時にはその他大勢の株主に成り下がっていた・・・ということも考えられるのです。

また、もうひとつの疑問は、先のポニー・キャニオン株をフジなどに売ってしまう「クラウン・ジュエル」は訴訟で負ける可能性が濃厚なのに、今回のは大丈夫なのかといことです。
この点については、「情報通信に強みを持つ未公開企業に投資して育てるファンド」を作るという「大義名分」がきっちりありますので、これは経営陣が自社の利益になると判断して行ったとすれば、あたりまえの経営判断です。よって、これに正当性がないとライブドアが証明するのは極めて困難だという読みがあります。


【大人社会の建て前(^_^;)】
ソフトバンク・インベストメントは記者会見で、今回のライブドアによる買収から防衛する目的ではないと言ってはいますが、ま、これが建て前であるのは大人であればみんな分かっていること。
でも、そう言えるからこそ、このファンドの設立とそこにフジテレビ株を貸出す正当性を演出することが可能となっているのです。

また、ソフトバンクの総帥・孫氏は関係ないと言っていますが、これも「んなことあるかい」とみんなが分かっていること(^^ゞ

てなわけで、現在は「堀江くん、ちょっとやりすぎちゃったかな。」というのが、彼を取り巻く社会の目・・・ってところでしょうか。



とりあえずまとめてみるとこんな感じ。
なんでこんなに大騒ぎになるのか、とか、当たり前のように議論されている「会社は株主のもの」という認識に対する異論などは、また別の機会に。


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